フィンランドでは、どの自治体にも「ネウボラ(neuvola)」という子育て支援を行う施設があり、妊娠期から就学の時期まで切れ目のないサポートを提供しています。このサポートは子どもの成長はもちろんのこと、父親、母親、兄弟など家族全体の心身の健康を目的としています。最近では親の精神的支援、父親の育児推進がネウボラの重要な役割となっています。日本も同様に子育て世代包括支援センターの法定化などを図り、妊娠期から子育て期までの切れ目ない支援等を通じて、様々なサポートを行っています。特に近年は、子育てをしているお父さんへの支援にも関心が高まってきています。
フィンランドの支援団体を視察した際、母子支援シェルター連盟のピリオ・コトカモ氏(精神科看護師)が実践している児童虐待の支援と出会い、フィンランドで活用されているパパカードを知りました。パパカードは元々フィンランドの母子支援を専門とする団体が、虐待加害者となる男性の「外傷体験」からの回復に注目し、開発した支援ツールです。日本国内では、父親支援のためのプログラムなども活用されていますが、パパカードのような普及啓発活動のためのツールが見当たらなかったため、フィンランドの支援団体の承諾を得て、児童相談所の保健師や児童心理司、大学の研究者の協力を要請し、日精看が「パパカード」を完成させました。この支援 ツールは、すべての人のこころの健康を大切にした“優しさが溢れるツール”です。
パパカードを活用した支援事業は、「児童虐待予防支援」としています。これは“これから起こり得る虐待を防ぐ”ということではなく、“子どもの健やかな成長への支援と、母親・父親・兄弟など家族全体の心身の健康サポートを行う”ことを目的としているからです。
その中でも、父親(パパ)の気持ちを支えることに着目して、子どもや母親やその周囲の人たちをサポートする支援が、パパカードを活用した児童虐待予防支援なのです。
パパカードは、新しく父親になった人と、これから父親になる人のために作られたものです。児童虐待の問題の有無に関わらず、すべての父親に活用していただければと思います。
また、パパカードは母親が父親のことを理解することにも役立つ内容になっています。私たちから母子保健、父子保健、子ども支援の支援者へ。そして支援者から対象者へ。パパカードが、 父親とその家族や周囲の人との対話の手助けになることを願っています。
パパカードは4パターンで1セットになっていますが、ひとつひとつのカードが父親の役割意識の成長とともに4ステップにわかれていることが特徴です。
父親になったばかりの人、これから父親になる人の基本的な情報をまとめています。
父親が子どもにできることや、子どもに向き合うことの意味などをまとめています。
父親が自分自身を大切にすることで得られる周囲との関係性についてまとめています。
子どもの安全や安心感に父親が大きな影響力をもっていることをまとめています。
カードを読んで気づくことや感じることは、その人の父親イメージや、成長の程度によって異なることでしょう。すべてのカード情報を順に追って理解する場合もあれば、ひとつのカードに共感することもあるでしょう。一方で受け入れられないといった気持ちになることもあるかもしれません。どのような気持ちであっても、そのような気持ちを感じたということが大切なのです。 パパカードを提供し、活用する支援者は、“父親の気持ちを支える”ことを忘れず、対話することを大切にしてほしいと思います。
パパカードは普及啓発のための専門ツールです。対象者に提供して読んでいただくだけでも意義があります。もし、直接対象者(父親、母親、子どもにとって大切な存在の人など)と対話することができるようであれば、その場で声に出して読んでみて、その時の気持ちや思いを語り合ってみてください。実際に「読み聞かせる」という方法は、聞かせる側の記憶も強化させるという研究報告もあります。このような活用ができれば、普及啓発活動だけに留まらない、具体的で直接的な支援活動になると考えています。