倫理

倫理教育研修

精神障がい者への適切なケアをおこなうための倫理教育推進事業

 日精看では2024年度から、「精神科看護職の倫理綱領(倫理指針)」を活用した実践的な倫理教育研修を全国共通した教育内容で実施しています。倫理研修の特徴は、精神科看護職の倫理綱領の意味を理解し、倫理的感受性を養うことはもちろんですが、質の高い看護実践に結びつく知識や技術の習得を目的としています。

研修会のねらい

 倫理的観点から組織風土の醸成に資する能力を習得した指導者(看護師)を養成する
 ①倫理教育を実施する看護師が看護倫理を学ぶ看護職に対して行う教育活動(主に院内教育)の倫理的指針となる。
 ②精神科医療機関において行う教育活動の倫理的指針となる。
 ③看護職の所属施設において、その看護職が教育及び評価の対象となる際、「精神科看護職の倫理綱領」がその看護職の権利を擁護する指針となる。

開催|看護倫理指導者養成研修会

 47都道府県(開催時期や内容に関しては、マナブルから所属の支部の研修会を検索してご確認ください)

受講料

会員 4,400円(税込)/非会員 8,800円(税込)
■以下のテキスト(税込み2,640円)のご購入が受講要件となります。

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(日精看特別価格で販売中)

倫理綱領

精神科看護職の倫理綱領

前文

 精神科看護職(※1)は、精神的健康について援助を必要としているすべての人々を対象として、精神科看護の専門的知識と技術を活用し、自律性の回復と、その人らしい生活を営めるよう支援することをめざす。この援助・支援は、個人の尊厳と権利擁護を理念として行われなければならない。

 また、精神科看護では、精神的健康の保持・増進を図るほか、精神疾患の早期発見・早期介入と健康回復、精神疾患の治療およびリハビリテーション、精神障害をもつ人が地域で安心して安全に暮らすための生活支援、精神障害に関する啓発活動等を行うことを通して、社会に貢献することも求められている。

 精神科看護は、このような多様な領域での実践や研究を基盤に政策提言を行うことで、すべての人々の精神保健の充実、向上に寄与するものでなければならない。

 人(※2)は本来、生命、自由および幸福追求に対する権利、その他の人権を有し、個人として尊重されるべき存在であり、障害や疾病、文化的背景・価値観・信条等により制約を受けることなく、敬意がこめられた看護を受ける権利がある。

 しかし、精神科医療では、非自発的入院や、隔離・身体拘束などの行動制限が法律に規定されていることからもわかる通り、人権の制限を行わざるを得ない状況が生じる場合もある。そのため、精神科看護職は、安心・安全な医療の提供や医療の質を保障することに加えて、対象となる人々を個人として尊重し、治療・看護のあらゆる局面においてアドボケイト(※3)としての役割を担わなければならないという強い自覚が必要である。

 本倫理綱領は、精神科看護職一人ひとりが自らを律し、かつ所属する組織が自浄能力を発揮して、精神科看護の質を維持・向上させるための看護実践の際の指針として作成された。また、精神科看護職の責任を明示し、精神科看護職を社会的存在として正当に評価してもらうための社会への意思表明でもある。

※1:本倫理綱領の「精神科看護職」は、精神科看護の現場(対象となる人々がいるところ全て)で働くものすべてを指す
※2:ここでの「人」とは、国籍や人種、民族等を問わず、精神科看護を必要としているすべての人を指す
※3:対象となる人々のためにその権利を代弁・擁護して、権利を実現させるための代弁者・擁護者を指す

倫理指針と解説

1.人権尊重

精神科看護職は、いついかなる時でも、対象となる人々の基本的人権を尊重し、個人の尊厳を傷つけることなく、権利を擁護する。

(解説)

●1-1 人としての尊重と権利の擁護
 看護は、基本的人権の尊重を基盤にして提供されるものである。精神科看護職は、対象となる人々が納得できる最適な治療と、満足できる看護を受け、その人らしい生活を営むために、個人の権利を擁護する役割を果たさなければならない。

●1-2 専門職としての相互の責務
 精神科看護職は、同じ看護の専門職同士が協働して業務にあたらなければならない。その一方で、非倫理的行為を察知・発見した場合には、被害に遭っている人の権利を擁護するために専門職として相互にアドボケイトとして行動する。

●1-3 倫理的な組織文化の構築
 組織は、対象となる人々の尊厳と権利を守るための組織文化の醸成に尽力する。組織に所属する個々人の倫理的指針の軸は、所属する組織やチームの文化に傾くことが懸念されるため、組織文化的な感覚麻痺を引き起こさないよう、外部の人の見解を確認する。また、自らの文化を他の組織の文化と比較する機会をもつよう努める。
 組織は、非倫理的行為の告発に対しては、それを倫理的な行為として褒賞するとともに、真摯に受け止めて対応する姿勢をもち、決して告発者を罰するようなことがあってはならない。

2.善行

精神科看護職は、対象となる人々の自己決定を尊重しつつ、最善の利益に基づいて共に考え、最善と思われる看護を提供する。

(解説)

 精神科看護職は、対象となる人々の自己決定を尊重し、そのための情報提供と決定の機会を保障すると共に、常に個別的なアプローチと温かい配慮をもって接するように努める。その際、対象となる人々の求める看護と提供されている看護が一致するとは限らない。そのような場合でも、対象となる人々が不利益を被らないよう配慮し、より望ましい看護を提供するために、人間性や生活、病状、背景等を考慮し、対象となる人々とのパートナーシップを高めながら、最善の利益に基づいて納得のいくまで何度でも話し合って、再考する。

3.無危害

精神科看護職は、対象となる人々に、危害を及ぼしてはならない。また、危害が及ぶのを防ぎアドボケイトとして行動する。

(解説)

●3-1 危害を及ぼさない責務
 対象となる人々とケアを提供する看護職との間では、情報の非対称性などにより、上下関係が生じる可能性がある。つまり、精神科看護の実践において倫理的緊張感(※4)を欠けば、対象となる人々の尊厳を傷つける危うさを常にもっている。そのため、倫理的感性を磨く努力を途切れることなく行い、常に対象となる人々の人権を尊重する行動をとらなければならない。また、看護職各々が自覚し、より倫理的な組織文化を育んでいかなければならない。

●3-2 危害が及ぶのを防ぐ責務
 対象となる人々が暴力および虐待、搾取などの危害にさらされる、あるいはその可能性がある場合には、その人々を保護し、安全に過ごせるよう進んでアドボケイトの役割を果たす。  その他、治療上の副作用などの状況を観察し、疑義がある場合には、医師に確認する、多職種での話し合いをもつなど、精神科看護の専門職としての役割を果たさなければならない。

●3-3  行動制限に関する責務
 行動制限は、対象となる人々の尊厳および人権を侵害する行為であり(※5)、自尊心の低下のみならず、多大な苦痛や不安、さらには身体・精神機能の低下という弊害があることを認識しておく必要がある。
 精神科看護職は、行動制限を回避できるような看護の提供に努めなければならない。やむを得ず行動制限を実施することとなった場合には、どうしたら早く行動制限を解除できるのかを、業務の中で検討する。その際、切迫性、非代替性、一時性の三原則と照らし合わせ、できる限り早期に解除できるよう、チームで一丸となって取り組まなければならない。
 また、行動制限中は、通常よりも頻繁に観察を行い、基本的欲求を満たせるよう個別の看護を提供し、二次的な身体的障害等の不利益が生じないように努める。

※4:看護職は、通常より倫理観に基づいた行動を無意識にとるものであるため、時に自分自身の日々の実践を意識的に振り返り、倫理に反する言動に対して批判的に思考し、自分自身の 言動を点検する姿勢をもつこと
※5:障害者権利条約14条「不法に又は恣意的に自由を奪われないこと、いかなる自由の剥奪も法律に従って行われること及びいかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在によって正当化されないこと」

4.知る権利、自律、自己決定の尊重

精神科看護職は、対象となる人々の知る権利を尊重し、説明責任を果たすとともに、意思形成、意思決定を支援する。

(解説)

●4-1 知る権利(※6)の尊重と説明責任
 精神科看護職は、対象となる人々が自らの治療に参画し、納得して医療や看護を受けることができるよう、自分の状態や治療、予後、看護の内容を正しく、かつ最善の利益に基づいたベネフィットとリスクの両方を理解できるような説明をする。また、説明責任は医療チームが負うことを認識し、内容により適切な説明者を選択して、説明を受けられる場を提供する。
 自傷他害の危険があり、医師の指示により非自発的な入院になった場合、あるいは病状によってその場での説明に同意がとれない場合であっても、対象となる人々の状態とタイミングをみて、理解が得られるまで説明を行わなければならない。

●4-2 意思形成、意思決定の支援
 精神科看護職は、対象となる人々が自分の状況等を十分に理解した上で、自律して治療等に関する意思形成、意思決定ができるよう支援する。意思決定においては、自身のニーズに気づき、それを満たすためにどのようにしたいかを考えて、決められるよう看護を提供する。
 また、対象となる人々には、「医療を受けることを選択しない権利(※7)」もあることを鑑み、医療やリハビリをどのように受けるかについても、個人の意思が尊重されるよう努めなければならない。そのため、対象となる人々と看護職は、互いに協力し合うパートナーとして、本人に不利益が生じないように説明したうえで、意思決定に力を合わせて取り組む。

●4-3 非自発的入院
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律による非自発的入院のように、本人の意思を尊重しないという例外的な場合もあるが、そのような状態においても本人の理解が得られるように説明をしなければならない。

※6:知る権利を尊重しなければならないが、ただ一方的に情報を伝えることもまた倫理に反する可能性があることを念頭に置いて、情報の伝え方などを熟考し、工夫する必要がある
※7:障害者権利条約17条「全ての障害者は他の者との平等を基盤として、その心身がそのままの状態で尊重される権利を有する」

5.守秘義務

精神科看護職は、職務上知り得た情報に関する守秘義務を遵守し、個人情報を保護する。

(解説)

●5-1 合目的的(ごうもくてきてき)(※8)情報収集と使用
 情報は、目的や必要性に応じて収集されるべきものであり、対象となる人々が自己で判断して提供できるようにすることが望ましい。その際に、あくまでも看護の提供に必要な情報のみを収集するよう心がけ、対象となる人の負担に配慮する。また、興味本位で深層まで踏み込んではならない。
 得た情報の取り扱いには細心の注意を払い、使用する際にも目的を明確にし、目的外使用は避ける。さらに、個人情報の漏出を防止するための対策を講じ、情報が安全に管理される体制を整備する。

●5-2 個人の情報や尊厳の尊重
・5-2-1 個人の情報に関する権利を侵害しない
 対象となる人々や、その関係者の肖像権、著作権、知的財産権などを侵害してはならない。
・5-2-2 秘密を守る
 対象となる人々について、職業上知り得た秘密は守り、許可なく情報を発信してはならない。
・5-2-3 インターネットを介したコミュニケーションに留意する
 インターネットを介したコミュニケーションにおいて、
 ①職業上の関係者や所属組織にかかわる情報を許可なく配信し、プライバシーを侵害してはならない。
 ②誹謗中傷、名誉棄損にあたるような情報発信をしてはならない。それが個人的なやり取りであっても、同様に守秘義務を遵守しなければならない。
・5-2-4 誤った情報の取り扱い
 情報の内容や扱い方に誤りがあったことが判明した場合には、誤りを認めた上で、迅速に削除や修正、訂正を行う。

※8:ある物事がその目的にかなっているさま(明鏡国語辞典より)

6.自己管理

精神科看護職は、看護を提供するうえで必要な自分自身の体調管理を行い、自己の意思で感情、思考、行動を制御できる状態を保つよう努力する。

(解説)

●6-1 体調管理
 従来、精神科において倫理的問題として明るみに出るケースでは、精神科看護職自身の心身の状態や職場環境が必ずしも良好に保たれていないことが要因の1つとして挙げられる。また、看護は、業務量が膨大なだけでなく、対人援助職として感情の抑制、緊張、忍耐などが要求され、精神的なストレスや負担も大きい。そのため精神科看護職は、専門職としての役割を果たすことができるよう、自分自身の心身の健康を整えるよう努めなければならない。
●6-2 組織としての対応
 組織は、職員が安心して働くことができ、各々の体調を整える上で必要な労働環境の整備を行う必要がある。

7.人格の陶冶(とうや)(※9)

 精神科看護職は、看護という仕事を誇りあるものとするために、看護職として日々の行動の是非をわきまえて、社会の信頼と期待に応えられるよう良識ある態度を示す。

(解説)

 精神科看護職は、専門職としての使命と責任を自覚し、自己の仕事として誇りを感じられるような質の高い看護を提供していく必要がある。また、社会の信頼と期待に応えられるように自らを律し、行っていいことと行ってはいけないことを認識して、品格ある言葉遣いや態度をとるように心がける。

※9:人の性質や能力を円満に育て上げること。育成。人間のもって生まれた素質や能力を理想的な姿にまで形成することをいう。「教育」が人間の成長に関する包括的な概念であるのに対して、「陶冶」は、知的・道徳的・美的・技術的諸能力を発展させることによって、よりよい人間を形成しようとすることである(日本大百科全書より)

8.継続学習

精神科看護職は、専門職の責務として、個々人が看護実践、および継続した学習を行い、看護にかかわる能力を維持・向上できるよう努力する。

(解説)

 疾病構造の変化、国民の意識の変化、医療技術の進歩ならびに社会的価値の変化にともない、多様化する人々のこころの健康上のニーズに対応するために、高い教養とともに高度な専門的能力が要求される。このような要求に応えるために、自分自身の看護実践と、その結果に責任を負う立場にある専門職として、生涯継続して学ぶ責務があることを心に刻み、計画的にたゆみなく日々研鑚に励み、自身の能力の維持・開発に努める。

9.看護の探究・発展

精神科看護職は、実践の構築、および看護研究により、対象となる人々に有益な看護を探究し、精神科看護の発展に貢献する。

(解説)

 精神科看護職は、より質の高い看護が提供できるよう、日々の実践や研究等により得られた最新の知見を活用するとともに、新たな専門的知識・技術の開発に努め、精神科看護の発展に貢献する。
 その研究においては倫理的配慮により、あらゆる研究の対象となる人々の不利益を受けない権利、情報を得る権利、自分で判断する権利、プライバシー・匿名性・機密性を守る権利を保障しなければならない。また、研究の目的によっては、積極的に当事者らと協働する。

10.多職種連携

精神科看護職は、対象となる人々が、その人らしく地域で生活できるよう、当事者、および家族とそれらの団体、他の専門職・各種団体との連携を図る。

(解説)

 精神科看護職は、対象となる人々が、その人らしい生活を継続できるよう、自律性の回復と維持、増進という目的を共有し、個々人では達成できないことを達成できるよう力を集めて取り組む。個々の役割と能力、その限界を理解し合った上で、情報を共有し、明確な目標を設定して連携体制を構築する。

11.社会貢献・正義

精神科看護職は、精神障害に関する正しい知識の普及やこころの健康づくりに寄与する。また、障害等の種類や有無を問わず、誰もが差別なく受け入れられ、安心して暮らせる社会の実現に貢献する。

(解説)

 精神科看護職は、対象となる人々が地域社会の一員としてその尊厳が守られ、安心して生活が送れるような地域社会づくりに力を尽くさなければならない。精神疾患や障害に対する根拠のない偏見や差別により社会的不利を被ることがないよう、社会や教育現場において、精神疾患や精神障害は誰でも起こり得るものであることや、メンタルヘルスについての正しい知識の普及・啓発等を行う。また、さまざまな領域の医療職に対しても同様の活動を行うことにより誤解や偏見を是正することに寄与する。

12.法や制度改正等に向けた政策提言

精神科看護職は、専門職能人として社会の要請に応えられるよう、専門職組織を通じて対象となる人々の権利擁護や、精神科看護の水準向上、価値の発展のために政策提言等を行い、よりよい制度の確立に貢献する。

(解説)

 精神科看護職は、法や制度に精通しておくことが重要である。その上で、対象となる人々のニーズの実現や専門職業人として最大限の力を発揮するために、臨床や地域において絶えず政策に関する情報感度を高め、看護の現場の課題を、専門職組織等に提供することによって貢献する。
 そして、精神科看護領域における課題に関して、一般社団法人日本精神科看護協会等の専門職組織と連携して、関連する法や制度をよりよいものにするために政策提言を行う。その際には、必要に応じて他団体等と協力する。


2021年5月15日改正
一般社団法人日本精神科看護協会

ブックレット

『精神科看護職の倫理綱領とモヤモヤMEMO』

ぜひご活用ください

日精看会員のみなさまに、ブックレット『精神科看護職の倫理綱領とモヤモヤMEMO』(ポケットサイズ/全32ページ/2021年9月発行)をお届けしています。
なお、「モヤモヤMEMO」ページ部分のみ、PDFをこちらでダウンロードできますので、メモ欄を使い切ってしまった場合などにプリントしてお使いください。A4両面でプリントアウトしてタテヨコ半分ずつに折ると、ブックレットと同サイズになります。
「モヤモヤMEMOの使い方」はこちらでご覧いただけます。

販売のご案内

会員の皆さまにお届けしてきたブックレットですが、ご要望により、より多くの方にご活用いただけるよう販売することにいたしました。
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研究倫理審査

日精看で研究倫理審査を始めます

2024年5月18日より、日精看で研究倫理審査が受けられるようになります。詳細は、「学術集会・研究」ページに掲載の「研究倫理審査実施要項」(PDF)等をご覧ください。
※日精看の会員であれば、どなたでも研究倫理審査の申請ができます。ぜひご活用ください。

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