NISSEIKAN
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<解説>
この定義は以下の三つを骨子として精神科看護を定義している。
(1)精神科看護の対象
(2)個人の尊厳と権利擁護
(3)自律性の回復とその人らしい生活
99文字の定義に込めた精神科看護の理解を容易にするために、骨子ごとに解説する。
(1)精神科看護の対象
精神科看護は、精神的健康について援助を必要としている人々を対象としている。精神的健康は単に精神疾患に起因するものだけではなく、人々が生きる過程で直面する多様な心の問題を含んでいる。よって、精神科看護は、精神疾患を有する人々にとどまらず、すべての人々を対象とする幅広い支援活動を意味している。
精神医療を取りまく社会的環境は、入院医療主体から地域を拠点とした地域生活支援へと変化してきている。また、日々精神保健への関心が高まる社会情勢の中で、個人が心の健康を保とうとするニーズも顕在化しつつある。
このような社会的環境の変化を受け、精神科看護者は、疾病の予防や治療に限らず、心の健康を保持・増進する活動に積極的に参加し、精神保健福祉の向上に寄与しなければならない。
(2)個人の尊厳と権利擁護
生命・自由・幸福の追求は日本国憲法で定められた、国民の権利であり人間がもつ根源的かつ普遍的な願いである。しかしながら、我が国の精神障害者の処遇をめぐる歴史的経緯は、人権が尊重されてきたとは言いがたい。精神科看護者は、この歴史的経緯を重く受け止め、対象となる人々の生命、人格に対する深い尊厳とともに、高い職業倫理をもって判断し、行動しなければならない。
精神障害者をめぐる法整備は精神衛生法から精神保健法、さらに精神保健福祉法へと変遷し、対象者主体の医療がすすめられている。精神科看護者は、精神保健福祉法に規定された精神医療の特性を踏まえ、良質な医療を提供するために、治療上必要な行動制限に対しては、十分な説明のもとに、可能な限り対象となる人の同意を求めながら、必要最小限となるように専門的知識や技術をもって応えなければならない。
(3)自律性の回復とその人らしい生活
精神科看護の対象は、精神的健康について援助を必要としているすべての人々である。「自律性の回復」とは、対象となる人自らが、思考・判断・行動することを通して、自身のより良い生き方を見出すことを指している。
精神科看護は、対象者自ら精神的健康について考え、より良い生き方を見出せるように支えることを目的としている。人はだれしも固有の生活史と生活環境を有し、個別性を持って生きている。その人らしさは、その人自身の自律性の回復をもとに実現可能となる。したがって、精神科看護者は、患者-看護師関係を基盤に対象の個別性を尊重し、自律性の回復に向けて支援しなければならない。
2004.5.26