訪問看護サポート

精神科訪問看護にかかわる皆様へ

これからの日精看は、病院と地域をつなぐ「看・看連携」にも力を入れていきます。

また、精神科訪問看護に関するプラットホームの役割(精神科訪問看護をよりよく動かすための土台のような役割)も担いたいと思っています。

このページや「日本精神科看護協会 精神科訪問看護ツイッター」などで、さまざまな情報を発信するとともに、皆様の声をお聞きしながら、精神科訪問看護に関する政策提言をより積極的に行っていきます。

精神科訪問看護ニュース

精神科訪問看護に関する大切な情報をお届けするニュースです(随時更新)

Vol.09(2022/02/23)「精神科訪問看護におけるストレスマネジメント」

 精神科訪問看護の現場で働く看護師は、常日頃よりストレスと戦い続けなくてはいけない代表的な職業です。また、最近では新型コロナウイルス感染症がストレス要因としてプラスされ、より気が滅入っている方が多いのではと感じています。

 ストレスにもさまざまなものが存在しますが、今回は不安、焦り、苛立ち、怒り、緊張といった感情を伴う心理的ストレッサーとその対処法について、主に私の経験をふまえてお話します。

 まず、訪問先の利用者からストレスを受ける場面で浮かぶのが、「罵声を浴びせられた」「身体的な暴力を受けた」「性的関係を迫られた」「利用者との関係がとれず介入方法が分からない」「夜間に緊急性を感じないコールが頻繁に鳴る」「訪問をドタキャンされる」「家族の過度な期待に困惑している」などが挙げられます。

 次に職場環境やスタッフ間におけるストレスとしては「咄嗟の判断を迫られる」「仕事上の相談相手がいない」「労働に見合った給料がもらえない」などがあります。その他「関係機関との足並みが揃わない」など他機関との連携についてもストレス要因としてあるのではないでしょうか。

 このような高いストレスが蓄積された状態を放置すれば、いずれはバーンアウトや看護場面での判断力低下に至る恐れもあります。

 ストレスマネジメントには、自身がストレスに気づき、これに対処していくセルフケアや管理職などの上司や先輩看護師に改善を求めるラインケアと呼ばれるものがあります。

 特に経験の浅い看護師ほどストレスに直面したときの対処が困難になりやすいと考えるのが一般的ですし、病棟で勤務する看護師と比較しても、自分で解決できそうにない問題に対しても一人で立ち向かわざるを得ない状況に陥りやすいという特徴があります。さらに言えば、訪問看護師はセルフケアで自身のストレスに気づいたとしても、ラインケアによるストレスマネジメントを受けることは容易ではありません。

 これらの解決のためにはスタッフ間のコミュニケーションを絶やさないことが大切です。

 私は、訪問看護という環境においてこの問題をいかにカバーするのかと長年工夫をしてきましたが、最近は新型コロナウイルス感染症が蔓延したのを契機にオンラインによるコミュニケーションが定着してきました。訪問看護でストレスを感じるような場面に遭遇した際にSOSをリアルタイムで出せるというのは現場スタッフの安心感につながると思われますので、スタッフ間の日常の習慣としてのコミュニケーションシステムを各々のステーションで工夫していただきたいです。

 最後に、ストレス蓄積によりメンタルヘルスを崩したり、それによって離職する等はぜひとも避けなければなりません。ステーションのスタッフ一人ひとりのメンタルヘルスを健康に保つためにも日頃からストレスマネジメントの組織的なサポート体制をつくることも然りですが、ストレスマネジメントに関する研修に参加し、自らストレスに対処する力を身に着けるように心がけるとよいでしょう。

高田修治
セノーテ訪問看護ステーション 統括管理責任者

Vol.08(2022/01/11)「WRAPと訪問看護」

 WRAP(Wellness Recovery Action Plan)とは、日本語では元気回復行動プランと訳され、アメリカの精神障害をもつ人たちによって作られたリカバリーに役立つツールです。

 精神科訪問看護をする中で、調子を崩すきっかけや、体が出してくれているサインに気付いていない方が多いとか、適切な気分転換活動ができていない方が多い等と気付いたら、このツールを使ってみるのもひとつの工夫かと思います。

 WRAPでは、調子を崩すきっかけになることを「引き金」、体が出してくれているサインのことを「注意サイン」と呼びます。この「引き金」や「注意サイン」に本人が気づき対応することで、精神的に安定した生活を送ることができると考えます。WRAPは「自分で作る自分の取り扱い説明書」であり、本人に合ったプランを本人が作ることが重要で、看護師は利用者の気持ちに寄り添いながら、見守り支援していくことが大切になります。

 まず、「元気に役立つ道具箱」と呼ばれる、自分の元気に役立つものに意識を向けてもらい、その中から「毎日すること」と「時々すること」に分ける「日常生活管理プラン」を作成し、元気の維持や回復に役立ててもらいます。そして、「引き金」や「注意サイン」に気付いてもらい、その時に対応するプランを立て実践してもらいます。同じように、調子が悪くなってきている時のサインや、危機的な状況になっている時のサイン、危機的な状況を脱した時のサインに気付いてもらい、サインが出た時の対応策を一緒に考えていきます。

 WRAPには「希望」、「責任」、「学ぶこと」、「権利擁護」、「サポート」という、リカバリーに大切な5つのキーコンセプトがあります。「希望」とは、夢や目標といった目指すものではなく、希望を感じること、希望の感覚です。例えば虹を見た時に「わぁ。きれい」と思う感情、このようなものが希望の感覚です。東北大震災の後、ある人が「雲ひとつない青空を見た時、希望を感じました」と言いました。これがWRAPでいう「希望」です。「責任」とは、自分が主体になることです。自分自身の元気と生き方に責任を持つことは、失ってしまった主導権を取り戻すことを意味しています。「学ぶこと」とは、適切な意思決定のために必要です。治療についてや暮らし方、人間関係や余暇活動等、自分に関して学ぶことが大切です。「権利擁護」とは、自分を信じ大切にすることです。自分の思いを自分の言葉で相手に伝えることは、自分を大切にするために重要です。嫌なことを「嫌」、したいことを「したい」と言えることが、自分を大切にすることにつながります。最後に「サポート」ですが、人はひとりでは生きていけません。相互作用の中で生きています。家族や友人、サービス提供者から効果的なサポートを受けていると、気分を改善する助けになります。そして最も価値のあるサポートとは、「聴くこと」と言われています。看護師は利用者の思いを、丁寧にじっくり聴くことが大切だと思います。

 訪問看護を始めたばかりの方から、「何を話していいのかわからない」という言葉をよく耳にしますが、<どんなことに希望を感じるのだろうか>、<主体的に生活できているだろうか>、<治療に参加できているだろうか>、<自分を大切にできているだろうか>、<サポーターは誰なのか>等、5つのキーコンセプトを意識しながら会話をすると良いと思います。そして<何が元気に役立っているのか>、<調子を崩す引き金は何なのか>、<体が教えてくれているサインは何なのか>等を問い掛けることで、利用者自身の気付きにつながり、本人主体の訪問看護になると考えます。

 WRAPについて興味を持ち、もっと詳しく知りたいと思われる方は、書籍がありますので参考にして頂けたらと思います。

河合正樹
訪問看護ステーション支援太

Vol.07(2021/11/27)「ケースミーティングのすすめ」

 みなさんの訪問看護ステーションや訪問看護部門ではミーティング、事例検討など、ケースに関する話し合いの時間をどれぐらい持っていますか?

 訪問件数が多くなかなか時間がつくれない、スタッフの時間調整が難しいなどの時間確保の課題によって、話し合う時間をつくれていないという実情がありますか?または、受け持ちの利用者さんのことを担当外のスタッフと共有するという意識がない、職場内で相談できる人や機会・場がないなどの課題がありませんか。

 ご本人の生活の場に出向いて看護を展開する訪問看護では、個別性や密室性も高く、その人が生きてきた歴史や家族の文化などがうごめく空間でのやりとりになります。その方が生活してきた歴史のなかで、今、利用者さんに何が起こっているか、目の前の事象をどう捉えたらいいかということは、ひとりの支援者だけで考えてもなかなか理解することができにくいのではないでしょうか。当事者理解のためには、客観的な視点や多方向からの視点が必要です。

 スタッフ間でのケースミーティングや事例検討は、利用者の気持ちに寄り添いながら希望に沿った看護が展開できているのか、担当スタッフは利用者をどのようにアセスメントして看護実践をしているのか等を担当スタッフの主観的視点と他のスタッフの客観的視点をすり合わせ、アセスメントを深めていくために必要です。また、利用者との関係性を深めることや、目標に沿った看護展開をするのが難しいと感じている場合等には、その理由について患者―看護師関係から紐解くためにも必要になります。

 そこで今回は、定期的にケースミーティングを行なうための時間の確保や、職場文化の構築、ケースミーティングを行なう利点など当事業所での工夫をお伝えしたいと思います。

 当事業所は、精神科診療所からの多職種支援を強みにしています。多職種支援をしている特性から、個別支援チームや事業所内、または関係機関と合同でなど、いろいろなパターンでケース共有をすることを大切にしています。そのなかで、利用者主体のかかわりを展開するために、本人の希望、客観的な情報の擦り合わせ、病状や生活のアセスメント、いま優先するべきことの確認などを欠かさないように意識しています。

 まずは時間の確保、場づくりの工夫ですが、この曜日のこの時間をケースミーティングの時間枠と予定に組み込み、意図的に設定するようにしています。あらかじめ誰がどのケースを提供するかも決めますが、緊急性によって検討するケースを直前に変更することもあります。訪問に影響が出ないようにケースミーティングの時間を決めて見通しを立て、議題を焦点化して話し合うようにします。また、それぞれの意見が出しやすい雰囲気づくりも大切にしています。なぜなら、話し合いの場が、責められる、怒られるというような心理的に負担な状況になってしまっては本末転倒になってしまうからです。

 ケースミーティングを重ねることの利点として考えられることは、
 ①時間を止めて話し合うことで、ケース理解が深まり、整理が出来、かかわりのアイデアが出し合えることで、本人に必要なケアが展開できる
 ②かかわっていないケースのことを話し合うことで、かかわっていない事例についても考えることができ、アセスメント力がつく
 ③かかわっていないケースのこともわかっていると、緊急対応時に活かせる
 ④スタッフの疲弊や抱え込み、孤立を防げる
 ⑤スタッフ間の関係性の構築につながる(スタッフのストレングスをお互いに理解できる、得手不得手を理解しあい、よいチーム支援につなげることができる)
この土台がしっかりできると、本人参加型のカンファレンスも積極的に行えるようになっていくと思います。

 コロナ禍では、なかなか対面で集まること、話し合うこと自体が難しいかもしれません。組織の規定もあると思いますが、何に気をつければ、感染リスクを回避できるかがわかってきた現在、工夫しだいで取り組める方法があると思います。日常の雑談のなかで、意識せずともやりとりできていたことがコロナ禍において難しくなったとき、当事業所ではコロナ禍だからこそ話し合う時間をつくろうと業務の組み直しをしました。人との距離をとることが当たり前の世の中になってしまいましたが、私たちの仕事で大事にするべきことを、今いちど考えながら、本人主体の支援が都度見直せるようにみなさんの現場でもケースミーティングの場を持つことを工夫してみてください。

加藤由香
医療法人小憩会 ACT-ひふみ

※以前のバックナンバーについては現在アーカイブ準備中です。後日アップしますので、いましばらくお待ちください

精神科訪問看護Q&A

疑問や困りごとに日精看の精神科認定看護師がお答えします(随時更新)

Q.01「利用者に不用意な発言をすることで精神状態に悪影響を及ぼすのではと思い、緊張してしまいます。コミュニケーションの難しさを感じています」

A.01

たとえば、うつ状態がつよい利用者は、思考の整理がうまくできなかったり、自責的になっていることもありますので、「頑張りましょう」という励ましの言葉は、逆に混乱を招くこともあります。「今まで頑張ってきたのに、まだ頑張らないといけないのか、頑張りが足りていない自分はダメだ」と受け止める利用者もいます。利用者の病気の特徴や性格、自己肯定感の低さなどから、言葉の受け止め方が、看護師の意図しない伝わり方をしてしまうこともあります。傾聴と共感を行い利用者のつらさを理解しようとする姿勢と健康回復に向けた協力者であるということを一貫して丁寧に説明し、態度で示すことが必要です。あまり堅苦しく考えず、人と人としての会話を楽しむことから始めましょう。

Q.02「ベテラン看護師しか精神科訪問看護はできないのでしょうか?」

A.02

多岐にわたる病態やさまざまな背景や社会的役割をもつ利用者への訪問看護は、ベテラン看護師でなければできないということはないと思います。確かに経験よって訪問看護師としての能力に違いはあると思いますが、大切なことは利用者の立場になって考えることができるか、利用者の価値観を尊重できるかということです。また、利用者のニーズをくみ取り、丁寧な看護援助に努めていくことで、必要な訪問看護を提供していくことができるでしょう。

Q.03「介護保険では訪問看護ステーションにおけるBCP作成を求められていますが、独自で作成するのはとても困難を感じています。サンプル的なものを示してもらえませんか?」

A.03

BCPの作成に当たってのガイドラインとひな形は、自然災害発生時・新型コロナウイルス感染症発生時のものが、厚生労働省のホームページに公開してあります。それを参考に事業所や地域の状況を反映させたものを作成されるとよいと思います。

たとえば新型コロナウイルス感染症では、ガイドラインの中に掲載されているフローチャートに沿って、事業所では誰がそれを担当するのか等を明記します。介護保険では感染対策委員を選出するようにも勧められていると思います。その人を中心に統括すると共に、感染者が出た場合の想定をし、市町村の担当者へどのような動きになっているのかをあらかじめ問い合わせて聴取しておくことが大切です。

自治体によって初動の時点で連絡する機関が違う場合があるので、必ず確認し計画に反映させておくとよいと思います。 あとは厚生労働省のホームページに様式ツール集もありますので、利用されるとよいと思います。

介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修動画|厚生労働省

※Q.04~15については現在アーカイブ準備中です。後日アップしますので、いましばらくお待ちください

PAGE
TOP